「体内時計への回帰」。株式会社O:に聞く、睡眠改善と生産性の関係とは?

O:INC.
睡眠やメンタルの不調によって、従業員の生産性が大きく低下するのはご存知でしょうか。従業員の健康管理を重要な経営戦略とする健康経営やウェルビーイングに注目が集まっていますが、具体的にどのような施策に取り組めばいいのか悩んでいる企業の方は少なくないでしょう。
今回は、従業員の「睡眠」をデータによって可視化することで、企業の「メンタル」と「生産性」の課題を解決するアプリ、O:SLEEPを提供する株式会社O:様にインタビュー。働き方改革をゴールとせず、継続的な生産性向上には何が必要なのか。サービスの展開背景から、企業の意識改善まで幅広くお話を伺いしました。

○鎌野里樹氏
株式会社O: COO
慶應義塾大学商学部在学中、サイバーエージェントで新規事業を立ち上げ、ベンチャー企業のCMOを歴任し、GREEでデータサイエンティストを務める。
現在、睡眠衛生を基にした従業員のコーチングアプリと、その睡眠状況から組織の生産性を分析、改善まで実施する分析システム「O:SLEEP」(https://o-sleep.com/)を展開、企業の「メンタル不調の早期発見(3次予防も提供)」「組織の生産性可視化/改善」「休退職者の削減」を支援している。
現在、睡眠衛生を基にした従業員のコーチングアプリと、その睡眠状況から組織の生産性を分析、改善まで実施。

「睡眠改善」は一つの手段。従業員の幸福とは?

鎌野里樹氏 株式会社O: COO
(鎌野里樹氏 株式会社O: COO)
ー:働き方改革を背景に、健康経営に注目が集まっています。貴社が健康促進のために「睡眠」に注目した理由を教えてください。

鎌野里樹氏(以下・鎌野氏):前提として、弊社は睡眠以外にも日中の行動も改善する、広義のヘルスケア全般をカバーすることを目的とした「体内時計」の会社なんです。
昨今、HRテックの流行から、エンゲージメント系やサーベイ系のサービスが多々でてきていると思います。しかしそれらサービスの多くに見られる、アンケートから組織状態を可視化して改善する取り組みは、主観的なバイアスが除き切れない課題があります。弊社サービスは、従業員がどれくらいの時間寝たか、いつ食事をしたのか。そういった客観的な情報をデータ化し、生産性向上に貢献します。

ー:体内時計を整える上で、睡眠は大きな要因となっているのですか。
鎌野氏:そうですね、もちろん睡眠だけではない部分もありつつ、睡眠の時間やリズムというのは、体内時計において重要なファクターとなっています。そこを最適化する。個人の体内時計は朝方・夜型と違うので、個人によって最適化された生活リズムで暮らし、体内時計を整えることを目的としています。

ー:睡眠が確保できないと、どのようなリスクがあるのですか?
鎌野氏:睡眠不足によって生産性の低下であったり、日中の作業効率が落ちたり、メンタルの状態が不安定になってしまう。それらが蓄積されると、離職率が向上してしまいます。最悪の結果、労災につながってしまうリスクも少なくはないと思います。
離職率の向上については、仮説としてではなく、医学的なエビデンスに基づいた結果です。共創で実証研究やサービス開発に取り組んでいる東京医大の先生の論文では、従業員が離職する様々な理由の中でも、生活習慣や睡眠習慣の乱れはずば抜けて高い要因という研究結果があります。そういったデータをベースに、生活リズムの改善に向けた一つの方法として「睡眠の改善」をサービス化しました。

ー:睡眠の改善から体内時計を整えるサービスは、多くの一般人に向けても効果があるように思います。toBに着目した理由はなんですか?
鎌野氏:ヘルスケアに関して、日本は特殊な市場にあると考えています。日本人は「健康」を、集団に属することで「改善してもらう」という意識が少なからずあります。一方海外を見渡してみると、健康は自分がカバーするという文化が一般的です。日本は国民皆保険という制度が土台にあるので、会社に属し保険金をなんとなく払う。病気になったら差し引かれた分の金額を払うだけ。そういった、個人ではあまり健康を意識しない市場特性を考えると、やはり企業向けにサービスを提供することで、その後のセルフケアにつながりやすいと考えました。

ー:積極的に個人で睡眠を改善したいニーズは少ないのでしょうか。
鎌野氏:「睡眠を改善したいなあ」と軽い気持ちで思っている方は多いかもしれませんが、実際に何かをやられている、続けている方は少ない現状はありますね。

ー:企業から睡眠改善を提案されることで、従業員も恩恵として受け止め積極的な睡眠改善につながるということでしょうか。
鎌野氏:そうですね。弊社のミッション・ビジョンとして、「体内という自分だけの時間に回帰しよう」を実現しようとした時に、個人がいきなり働く時間や生活の時間を変えるのはハードルが高いかと思います。仕事があり、家庭もある、環境要因が常に付きまといますよね。そこで、それら環境要因を考慮し体内時計をベースとした働き方、時間軸を会社から提供してもらえるのであれば、個人としてもスムーズに移行できると考えています。

ー:「体内時計への回帰」に向け、結果的に従業員はどのような状態にあるのが理想でしょうか
鎌野氏:自分が生きやすい生活リズムの中で暮らしている状態。というのが一番幸福に近いと思います。生産性・メンタル・離職率という企業の課題に、それら個人の幸福が実現されれば起用できると考えています。
やはり自分が生きやすい時間軸と、集団で行動するというのはどうしてもジレンマが生じてしまいますよね。しかし、多くの企業では従業員が朝方なのか夜型なのかもわからない。わかろうとしない。9時〜17時まで業務時間を固める時点で、従業員の幸福を叶えられているのでしょうか。弊社が目指す幸福の定義からは外れていますね。まずは従業員の現状を把握し、最適な時間の中で効率よく生産性を生み出す環境が企業には求められます。

「O:SLEEP」が変える、企業の生産性とその先

O:SLEEP リテンション
ー:O:SLEEPについて詳しく教えてください。
鎌野氏:一言でいえば、個人と集団に対して、組織レベルで睡眠習慣の改善、ひいては生活リズムの改善を支援しています。その手段として、個人に対してはアプリケーションを提供しています。その個人の集合データから、睡眠時間を把握、その睡眠時間によってどれほど生産性を担保できているのか、メンタルの状態はどうか。企業は組織・グループ・年代・性別・勤務体系などに群ごとの睡眠状態が一覧できるようになります。客観的な睡眠データで、主観のアンケートではわからない従業員の「隠れた本音」を把握できます。
ただ企業向けのサービスではありますが、前提として従業員のセルフケアによる睡眠・生活リズムの改善を目指しているので、アプリケーションを使うだけでは改善しないという方には、会社を通さずに個人介入することもあります。もちろん企業側が個人を特定してのデータ管理はできないため、従業員は心理的負担なしに活用していただけます。

ー:実際に導入している企業は、どのような形で導入されているのでしょうか。
鎌野氏:現在は部署単位で試験的に導入される企業が多いですね。これからは全社導入なども目指していければと考えています。

ー:サービス導入を検討している企業の方は、どんな悩みをお持ちなのでしょうか。また、導入後にはどのようなお声を頂いていますか?
鎌野氏:生産性やメンタル、ひいては離職率が高いといった課題に悩んでいる企業の人事労務からのお問い合わせが多いですね。
実際に、そのような課題に悩み弊社サービスを導入していただいた結果、改善実績として、50%メンタル評価がよくなったなどのお声はあります。0から100良くなったというのは、もちろん人間の状態なので難しいですが、数値などの目に見える形で効果をお届けできていますね。

ー:従業員がベストな睡眠時間を把握したとしても、勤務時間や休みづらさから睡眠時間を確保できない場合、どうすればいいのでしょうか。
鎌野氏:そこは弊社としても改善していきたい環境要因ではあります。理想は、従業員の暮らし・環境を変えるような、仕組みの部分まで体内時計にアジャストしていきたいと思っています。ただ企業の規模や組織風土の影響も大きいため、短期間での改善は難しいのが現状です。しかし部署単位での導入により、目に見える範囲内で全員が意識的に改善を目指すため、個人の環境的都合に対しても、引け目なく取り組める心理状態を構築できるとは思います。

株式会社O:が考える、理想の働き方とは

鎌野里樹氏 株式会社O: COO
ー:働き方改革のために、なんとなく施策や制度を導入し、思うような効果を得られていない企業は少なくないと思います。貴社が考える、「働き方改革の本質」を教えてください。
鎌野氏:弊社としては、「働き方」にとらわれずにもっと広義な意味で捉えていて、生活する時間・リズムといったものが、その人の最適な時間軸に沿う状態。というのが本当の意味での働き方、生き方を変える改革になっていると定義していますね。弊社は睡眠をサポートするサービスを提供していますが、これは最適な時間軸に合わせるための一つの手段にすぎません。睡眠は従業員にとってプライベートな時間ですし、そこにどうやって折り合いをつけるのか、現在模索している点でもあります。

ー:個人の理想の働き方に沿うために、今後企業はダイバーシティ経営の推進など、「多様性」にどう向き合っていくべきでしょうか。
鎌野氏:体内時計もダイバーシティの一つなので、生き方のリズムは一人ひとり違います。定時をなくしたりテレワークを導入する。いつでもどこでも働ける環境というのは、結果的に信頼感の情勢になってくると思いますね。弊社はセルフケアで従業員の一日のコンディションを改善し維持される状態を提供します。企業に求められる部分は、そういった状態が従業員同士で共有できている環境の構築にあります。お互いの状態をお互いが把握できる環境を企業が支援することで、セルフケアへの意識も向上し、従業員の多様性につながるかと思います。

ー:目先の利益拡大だけでなく、企業は従業員の「ライフ」も支援する必要があるのですね
鎌野氏:企業の中には、従業員の働く時間「以外」の部分を考慮できていないことが多いと思います。働いて、帰宅し、ご飯を食べて寝る。そういった従業員のライフスタイルを軽視しない。手出しができないのではなく、企業が選択肢の一つとして従業員の生活リズム改善を提供する。結果的に、企業の継続的な生産性向上や従業員の離職率低下につながると思いますよ。