2020年5月6日働き方改革
関連キーワード:

株式会社タニタの「日本活性化プロジェクト」はどう働き方を変えるのか

タニタ1
2017年1月、株式会社タニタは「日本活性化プロジェクト」と題して、希望する従業員の雇用形態を正規雇用から業務委託契約をベースとした「個人事業主(フリーランス)」に切り替える仕組みを導入しました。

タニタは家庭用・業務用健康計測機器の製造・販売や健康サービスを提供する健康総合企業です。「タニタ健康プロジェクト」と呼ぶ集団向け健康づくりプログラムを手掛け、厚生労働白書へ2度掲載されました。また、第2回健康寿命をのばそう!アワード」では厚生労働大臣最優秀賞を受賞するなど、様々な取り組みを行っています。

医療費の適正化を目的とする「タニタ健康プロジェクト」に対して、「日本活性化プロジェクト」は個人が自立的に働き、稼ぐ力を身に着けることで、ひいては日本全体の収入を増やそうとする取り組みです。2019年6月に、この取り組みをまとめた『タニタの働き方革命』(日本経済新聞出版社刊)という書籍を出し、話題になりました。

また、この「日本活性化プロジェクト」はリクナビNEXT主催の「第6回GOOD ACTIONアワード(2019年度)」でも特別賞を受賞しています。

GOOD ACTIONアワード2019:主人公は働くあなた

そこで、今回は「日本活性化プロジェクト」の現状について、同プロジェクト推進の責任者である、株式会社タニタ経営本部社長補佐の二瓶琢史様にお話を伺いました。

働く人の約1割が個人事業主

タニタ2
――タニタ様が「日本活性化プロジェクト」を発足した経緯を教えてください。

二瓶様(以下、二瓶)「戦後の日本は新卒で一括採用し、終身雇用することが主流だったと思いますが、現在、世の中の仕組みや人の考え方などが大きく変わってきています。会社と個人の間にも、従来の考え方にとらわれず、新しい関係性が求められるのではないかと、タニタの代表取締役社長を務める谷田が考えたことがきっかけです。

個人事業主になると仕事のやり方や時間、場所に縛られずに自由度が増えるという点がフォーカスされますが、自由度が 増すと覚悟 も 必要になってきます。 このことにより自立が促されて、仕事のスキルも上がる ことを期待しています」

――全社でどれくらいの割合の方が個人事業主になっているのでしょうか。

二瓶「2020年3月現在、開始から4年目で、24名が社員から個人事業主に移行して働いています。この取り組みの対象になるのは、タニタ本体に所属する社員で、グループ会社は含みません。本体で働くのは現在220名前後ですから、約1割が日本活性化プロジェクトの仕組みを利用しています。」

――個人事業主になった方は、外部でどのような仕事をしているのでしょうか。

二瓶「例をあげると、家業を継いだ人で、仕事の90パーセント以上の時間をその家業に充てています。タニタのオフィスには月に1、2回来て、 タニタの仕事を引き受けています。他には 、大学で講師をしている人や 、大学の研究プロジェクトに週1で参加している人もいます。

また、元々タニタ本体の仕事をしていた人が、昨年度からはグループ会社の仕事をメインにするようになり、本体からの仕事はスポットの業務だけになったという例もあります。私も本体の仕事とは別に、グループ会社と契約を交わして行っている業務が少しあります」

「日本活性化プロジェクト」による利点

タニタ3
――個人事業主へと雇用形態を変えた社員の方々には、タニタ様の事業とのシナジー効果を期待されていますか。

二瓶「もちろん直接的、間接的なシナジー効果は期待しています。日本活性化メンバー本人もそれは意識していると思います。NDA(秘密保持契約)があるため、それに触れるようなことはできないですが、大学の研究プロジェクトに参加している人は、ゆくゆくはそこで行った成果をタニタの仕事とつなげていけるという期待や思いを持って参加していると聞いています。

日本活性化プロジェクトは社員から個人事業主への移行という部分にフォーカスされることが多いのですが、社員での雇用形態を経ず、最初から業務委託契約の関係でスタートした人もいます。その中の1人が大学講師もしている人です。縁があってタニタで働いてほしいという話しになったのですが、『大学講師の仕事があるので、社員でフルタイムというのは無理です』とのことでした。しかし、タニタには日本活性化プロジェクトがありますので、『タニタでは業務委託契約でも働けるので、ぜひご協力いただきたいです』と言えたのです。その人からも『それは大変ありがたい』ということで、事業に参加してもらえました 」

――「 日本活性化プロジェクト 」にはそういったメリットもあるんですね。二瓶様自身が享受した個人事業主としてのメリットはありますか。

二瓶「社員のときとは全く違うアプローチの進め方ができるようになったことでしょうか。たとえば、新しいツールやシステムを導入するとき、タニタで直接契約をしようとすると契約書であったり、既存システムとの親和性の話であったり、時間や手間などが多くかかります。

そこで私は個人事業主として、私の名前でそのシステムを契約(ライセンス購入)して、タニタで使用した(使用してもらった)のです。その形で試してみて、評判が良ければ『ではライセンスを購入している分もすべて払えるぐらいの金額で来年の契約はお願いします』とタニタに交渉できるわけです。実際にトライして評判があまり良くなく、断念したものもあります。その場合は私にとって赤字にはなりましたが、それも勉強、糧になりました。むしろ、そういうトライができるというのがおもしろいです」

――チャレンジしてみようという意識が芽生えたということでしょうか。

二瓶「そうですね。当然、すべて独断でやっているわけではなく、確認や根回しはするのですが、会社の決め事だからやるというよりは、その瞬間に自分が必要だと思えるという理由で行動できます。これが、社員の頃とはずいぶん違うのではないかと思います」

――個人事業主だからこそできる挑戦ですね。このプロジェクトは若手の方も対象になるのでしょうか。

二瓶「年齢・社歴・職種といった条件はありません。誰でも手を上げるのは自由です。しかし、20代の割合は少ないですね。

タニタに今いる人は、みんな基本的には、雇用されたくて入ってきている人たちなのです。これはタニタに限らず、どの企業でも社員として働いている人は元々雇用されたくて入ってきている場合が多いわけです。そこから個人事業主に移るというのは、やはり躊躇してしまうでしょう。ですから、プロジェクトメンバーはそんなに一気に増えるものではないと思っています。

しかし、タニタでの在籍期間が長くなれば自然と人間関係が出来上がり、仕事にも慣れてくるので、あまり不安に感じずに日本活性化メンバーに移りやすいという要素はあるかもしれません。もっと役職が上の社員が手をあげてくれるようになると、若手も手を挙げやすくなると思います」

――これからは、新卒で入社してすぐに個人事業主ということも考えられますね。

二瓶「タニタではこの取り組みを昨年(2019年)の6月に公表しました。これからはこの取り組みを知る人が会社説明会に来ることになります。入社希望者の質が少し変わるのではないかという期待や想定をしています。新卒採用においても、このプロジェクトについての情報を発信していく必要がありますので、内容などを検討しているところです」

個人事業主とセキュリティの兼ね合い

タニタ4
――個人事業主になると、在宅勤務など、オフィス以外で働く機会が増えます。セキュリティ面ではどういう対策をされていますか。

二瓶「個人事業主に対して、社員と異なる特別なセキュリティ対策を施してはいません。もちろん、業務委託契約には守秘義務条項は綿密に盛り込んでいます 」

――ITシステム上のセキュリティは対策されていますか。

二瓶「タニタから委託された業務には、基本的に会社から貸与されたパソコンを使用することになっています。社員だったら当たり前だと思われるかもしれないですが、個人事業主になった私たちも同じものを使うことになっているのです。このパソコンは顔認証でなければログインできません。社員も個人事業主も同じ環境でセキュリティを確保しています。

また、社屋の出入りには、タニタの商品である活動量計を入館証として使用しています。健康経営に関する取り組みとして「タニタ健康プログラム」という自社のサービスを導入しています。このサービスで使う活動量計は、歩いた歩数以外にも、消費したカロリーなどがわかるものなのですが、さらに個人IDの認証機能を備えていますので、社員は健康管理ツール兼用の社員証として使用しています。そして日本活性化のメンバーも、同じ仕組みの活動量計でセキュリティ管理と健康づくりをしています。

社屋のセキュリティ管理は警備会社に委託しているのですが、活動量計をパネルにタッチすることで鍵が開く仕組みになっています。複合機でのプリントも、活動量計がないと出力できないようになっているのです。タニタ のセキュリティ管理の仕組みがあって、日本活性化メンバーもそれに組み込んでいます」

――会社としてのセキュリティが万全だからこそ、個人事業主、正規雇用者関係なく働ける環境といえますね。貴重なお時間をありがとうございました!

カテゴリー:働き方改革
関連キーワード: