2017年8月29日コンプライアンス
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労災のリスクは身近に潜んでいる……弁護士が教える、従業員とトラブルになりやすい事例と対策

長時間労働による従業員自殺の報道や「働き方改革」に伴い、世間は「労災(労働災害)」に対して敏感になっています。もし仮にあなたの会社が立て続けに労災認定の事案を出してしまったら、企業イメージの著しい下落は避けられません。

そのため今回の記事では弁護士の神尾尊礼先生に、労災認定を巡って企業と従業員の間で起こりやすいトラブルの例を伺い、そのトラブルを防ぐために企業は何をすべきか解説してもらいます。

労災認定されると、著しくブランドイメージが悪化する

まず簡単に説明すると、労災とは業務中や通勤中に起こった病気や怪我のことです。労災認定がされた場合、労働基準法の定めによって事業者は補償責任を負うこととなります(労災保険に加入している場合は、保険会社から支払いがなされます)。

もし労災認定されてしまうと、最もダメージを受けるのが企業のブランドイメージです。労災が相次げば「従業員教育を怠っている」「労働環境が劣悪」などのイメージを取引先や世間から持たれ、契約が解消されたり株価が下落したりする恐れがあります。従業員がメンタルを病んでしまうようなことがあれば、「ブラック企業」というレッテルを貼られる可能性も。

このような事態を避けるためには、やはりまずは労災の発生を防ぐことです。では具体的にどのようなものが労災と認められていて、どのような対策を取ればいいのでしょうか。ここからは、企業法務に詳しい弁護士の神尾尊礼(かみお・たかひろ)さんに説明していただきます。

気づかないうちにパワハラが発生しているかも……実際に労災が認められた事例とは

労災と認められる条件は、簡単に言うとそのケガや病気が
①仕事中のものであって(業務遂行性)
②仕事が原因のものであること(業務起因性)

が必要とされています。

例えば、仕事とは無関係に休日にケガをした場合、仕事中のケガではないので「業務遂行性がない」と判断され、労災にはなりません。また、仕事中に酒を飲んでいて転んだ場合についても、仕事が原因ではない、すなわち「業務起因性がない」ので労災の対象外といえます。

労災は、使用者の故意過失を問わず補償をする制度です。したがって、避けようのないものもあります。例えば、通勤中の電車が脱線した場合など、企業としてはどうしようもありません。

そこで、ここでは「企業が何とかすることができたかもしれない」という切り口で整理してみます。

【ハード面】設備・施設の不備

従来から圧倒的に多いのが、設備や施設の不備です。高所からの転落事故、転倒事故、機械に巻き込まれ事故などが当たります。

【ソフト面】職場環境の問題

近時、過労死が問題になるなど、ソフト面を原因とする労災も増えてきました。例を挙げてみます。

(1) 部下からの暴行
工事現場で課長をしていた方が部下に強く注意したところ、暴力を受けてケガをしました。
裁判では、仕事とはいえないくらいの侮辱や挑発的行為を部下にしていなかった限り、仕事が原因のケガであると判断しました。

(2) 上司のパワハラ発言
浄水場のメンテナンス会社でセンター長をしていた方が、うつ病になり飛び降り自殺をしました。

彼はその前日におこなわれた職場の懇親会で、上司(仲人もしていて信頼していた人)から「何をやらせてもダメ」などと言われていました。

裁判では、自殺は仕事が原因であると判断されていますが、このパワハラ発言も過重なストレスであり要因であると判断が下されています。

(3) 退職強要
バス会社で運転手をしている方が飛び降り自殺をしました。運転手はそれ以前に何回かアルコール検知に引っかかっていたのですが、これは実はアルコールが原因ではありませんでした。上司はこのことを知っていながら「3回引っかかった」というばかり。運転手は「クビになる」と強く思い、自殺につながりました。

この会社の対応が、強いストレスである「退職強要」に準じるとして、労災認定をしました。

(4) 長時間労働
最近の事件としては、広告代理店の事件がよく知られています。広告代理店に新卒で入った方が自死を選びました。残業時間が100時間を超える月もあったそうです。労基署はこの事故を労災と認定しました。

以前から長時間労働によって自死に至るケースはありましたが、極めて限定的にしか認められていませんでした。しかし裁判例が蓄積してきたことを踏まえ、厚労省が基準を緩和し、労災と認められやすくなっています

労災のリスクに対して、企業はどのような対策を取れるのか

念頭に置いていただきたいのが、先に述べたとおり「労災は使用者の故意過失を問わない」という点です。労災認定を過度におそれ、「労災隠し」をしてしまうと、刑罰の対象になるなど大きなペナルティがあります。起きてしまった場合には、適時適切に対処することが大切です。

ただ、労災の中には、企業側に故意過失がある場合も少なくなく、こういった場合には刑事責任や社会的責任を含めた非常に重い責任を負うことになります。そこで、故意過失があるといわれないよう、あらかじめ対策を施しておくことが重要になってきます。事前の防止策を先の事例紹介に即して説明します。

①危険防止措置をとる
設備や施設が問題になりそうなときは、柵をつけるなどの措置をとるのは当然として、安全衛生推進者や作業主任者などを置きます。その他、いわゆる4S活動(整理、整頓、清潔、清掃)も効果的と言われています。

②ハラスメント対策をする
先に述べたとおり、ソフト面のケアも重要になってきています。ハラスメント対策としてよく言われるような、研修の実施や相談場所の設置なども、労災対策として位置づけることができるでしょう。

③メンタルヘルス対策をする
②とも重なりますが、長時間労働を原因とする労災申請がいま増えていて、今後もその数は増えていくでしょう。

したがって、労働時間の管理はいま以上に重要になっていくことが予想されます。いわゆる過労死の基準としては、月の残業時間が継続して80時間を超えるか、単月で100時間を超えるかなどとも言われています。ただこれはあくまで目安であり、より細かなケアも必要です。ストレスチェックなどのメンタルヘルス対策が重要になってくるでしょう。

これからは、「ソフト面」をケアする時代に

以上のとおり、古典的な労災対策は、転落事故防止のようにハード面のケアが主でした。今後はこれに加え、ハラスメントやメンタルヘルス対策といった、ソフト面でのケアも重要になってくるでしょう。企業としては、「どうしようもできなかった事故」をいかに減らせるか、従業員が安全平穏に働ける環境を用意できるかがカギとなってきます。こうした取り組みが、企業ブランドの向上にもつながっていくのです。

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【監修紹介】神尾尊礼(かみおたかひろ)

東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。

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