「野良ロボット」とは? 発生の原因・対処法を解説

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近年、少子高齢化による人手不足の影響を受けて、RPA(Robotics Process Automation)の利用による定型業務の自動化が進んでいます。

矢野経済研究所が発表した2018年度の国内のRPA市場規模は、2017年度と比べて134.8%増の418億円に拡大する見込みです。同社は2022年度までに市場規模が802億7,000万円まで拡大すると見ており、RPAは「働き方改革」による生産性の向上を実現する手段として、今後も成長が期待されています。[注1]

しかし、RPAが普及するにつれて、次第に課題も明らかになってきました。そのひとつが「野良ロボット」の発生です。ここでは、野良ロボットが発生してしまう原因と対処法を詳しく解説します。

野良ロボットは「管理者不在のRPAロボット」。業務に悪影響を及ぼすことも

「野良ロボット」とは、端的にいえば、「管理者が不在となっているRPAロボット」のことです。この「野良ロボット」は放置すると悪さをして、本来であれば業務効率化に寄与するはずであったのに、むしろ業務の工数を増やすといった本末転倒の事態を引き起こすこともあります。
次で「野良ロボット」が発生してしまう原因をみていきましょう。

野良ロボット発生の原因は運用管理の難しさ・業務プロセス管理の不十分さなどにある

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野良ロボットが発生してしまう大きな原因には、以下が挙げられます。

第一に、RPAの運用管理が簡単であると勘違いし、導入後に使いこなせないケース。RPAは「導入が簡単」「プログラミング不要」といった宣伝文句でプロモーションされることが多く、これらの言葉をそのまま受け取って導入してしまう企業もあるようです。
しかし、実際は、導入自体は簡単でも、業務に利用するまでの設定が非常に煩雑であったり、設定やメンテナンスにあたってはプログラミングのスキルを求められたりすることがほとんどです。RPAを使いこなすためには、そのためのトレーニングを受けたり、プログラミングのスキルを持った人材を配置したりといった専門性を持った人材の確保が重要なのです。

第二に、業務プロセスの把握と整理、要件定義が疎かになった結果として、RPAが使われずに野良化するケースがあります。
最近は経営陣からRPAを導入せよとの指示が下り、本来は業務効率化の手段であるRPAの導入自体が目的化してしまう企業も多いようです。適切な自動化業務の選定やその後の人員配置への配慮などが疎かになり、自動化ありきで物事が進んでいきます。その結果、コストをかけた割には成果が上がらないという判断が下され、利用されなくなり、野良ロボット化してしまうのです

その他にも、IT部門に報告することなく業務部門が効率化のためにソフトウェアを導入したものの、管理していた社員が異動・退職し、引継ぎ不十分で処理がブラックボックス化してしまうケース。そして、外部に開発を委託したものの社内に使いこなせる人材がおらず、外部頼みになった結果、メンテナンスできなくなり放置してしまうケース。また、管理者がいないため業務プロセスの変化に対応できなくなって放置するケースなどが見られます。

以上のような理由で発生した野良ロボットは、場合によっては悪さを働き、企業活動に被害を与える可能性があります。
次から、具体的な被害についてみていきましょう。

野良ロボットが悪さをすると様々なリスクが!今後の業務効率化にも悪影響を及ぼす

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野良ロボットは、何の動作もしていないのであれば、利用していないウェブアプリケーションと同じで、特に影響はありません。しかし、中途半端に動作してデータを処理しているときは、その処理によって正しいデータが誤ったデータに上書きされたり、本来であれば権限が付与されないユーザーに権限が付与され、データが流出したりといったリスクが懸念されます

特に、RPAが得意とする大規模な定型業務では、大規模な分だけ被害が甚大になることが予想されます。他にも、ロボットが処理を実行し続けることで既存システムに負荷がかかり続け、システム全体のパフォーマンスが低下することもあるため、動作している場合は早急に対処していかなければなりません。

それに加えて、野良ロボットと化して成果を出せなかった場合、経営層にRPAの有用性を伝えられず、導入失敗の烙印を押されて協力を得られなくなり、その後の業務効率化に悪影響を与える可能性もあります。本当にRPAに適した業務が見つかった時に導入ができない、ということにもなりかねないのです。
日本経済新聞では、悪さを働くロボットのことを「ブラックロボット」と呼び、RPA普及後の将来的なリスクとなり得るとしています。[注2]

管理部門ができること

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野良ロボットの発生を防ぐために管理部門ができることは、基本的には野良ロボット発生の「予防」と「監視」です。
予防するためには、RPAの導入の際の要件定義を行う際に、業務部門と連携して、RPAを活用できる業務を選択しなければなりません。また、それに先立って、業務の棚卸を行い、業務プロセスの把握と見直しを行うことも必要となるでしょう。

また、監視のためには、部門横断型の組織の構築も必要となります。各部署に担当者を配置して、ロボットの変更があった場合にはその旨通知するシステムなどの構築が必要です。

しかし、IT部門は基幹システムの維持管理に手いっぱいになっていることも多く、別な対処法を取る企業もあります。例えば、建材・住宅設備大手のLIXILでは、業務部門が主体となって、グループ内でRPA人材を700人育成し、ロボットの開発と管理体制を強化しています。[注3]

経済産業省は、2030年までに、国内のIT技術者が約59万人不足すると予想しています。人手不足が原因で業務効率化が必要だというのに、その業務効率化に必要となる人材までが不足していく。そういう事態がもう目の前まで来ているのです。RPAの導入は今後も重要となりますが、人材の育成面まで含め、管理体制の構築は喫緊の課題といえるでしょう。[注4]

野良ロボット発生防止のためには自動化業務の選択・管理体制構築が重要

野良ロボットの発生に対処するためには、RPA導入時の自動化業務の選択と、管理体制の構築が重要です。そのためにも、導入前の実証実験段階で、課題をしっかりと把握し、業務部門と連携しつつRPAを任せる人材の育成と確保に努めていきましょう。

[注1]2018年度のRPA市場は対前年度1.35倍の418億円 – 矢野経済研究所
[注2]やがてブラックに 職場の「野良ロボット」に要注意
[注3]LIXIL、RPA人材をグループ内で700人育成
[注4]経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」